ぽかぽかな日々

ミステリーと恋愛小説が大好きな、雑読系主婦の読書日記です。

2021年10月

いのちの停車場 南杏子

FullSizeRender

東京の救命救急センターで働いていた
62歳の医師・白石佐和子は、
ある出来事の責任を取り
病院を辞めることになる。

38年ぶりに故郷の金沢で
暮らすことになった佐和子は、
金沢で幼馴染の仙川が営む
「まほろば診療所」で
在宅医療に携わることになる。
救命救急とは全く異なる
患者との関り方に初めこそ戸惑うが、
患者や介護する家族の気持ちに
寄り添い、
その患者にとって
最も適した医療を
真摯に追い求める。
佐和子のその誠実な姿勢は、
多くの患者や家族に信頼されていく。

在宅医療というものは
ただ治療をするということだけではなく、
患者や家族が
如何に心穏やかに
過ごせるかまで
気を配らなければ、
そもそも医療が成立しないということを
初めて知った。

母は既に亡くなっており、
元大学病院の神経内科の医師であった父と
仲睦まじく暮らす日々は
とても静かで穏やかな日常だった。
父が骨折をするまでは・・・

父は骨折をきっかけに
なし崩し的に病魔に襲われる。
元医師だったため
自分の現状をよく理解している父が
佐和子に頼んだことは、
驚くべき内容だった。

父親が実の娘にその様なことを頼むのかと
少し驚いたけれど、
それほど父の苦痛は辛いものだったのだろう。
辛い体を鼓舞して書いた
父からの手紙を読むと、
胸が張り裂けそうになった。
そして
それだけに
ラストの佐和子の行動には
全く納得がいかなかった。
それは父が望んでいた結末とは
真逆のものではないだろうかと
思えてならないのだ。



・老々介護
・在宅医療でできうる最先端医療
・セルフ・ネグレクト問題
・終末期医療
・小児がん患者とその家族

これらのテーマを短編で描いており
どれもとても考えさせられる作品だった。
個人的には
終末期医療の家族の物語に
特に引き込まれた。

医療系の小説は難しいイメージが
あったのだけれど、
この作品は
医療の専門用語も
分かりやすく説明されており、
とても読みやすかったし、
知らなかった知識に触れることが出来て
とても勉強になった。
また
作中に美味しそうな郷土料理が
沢山出てくるので、
金沢に行って
美しい自然を楽しみながら、
郷土料理をぜひ食べてみたいと思った。















にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ
にほんブログ村


読書日記ランキング

余命一年、男をかう 吉川トリコ

FullSizeRender

片倉唯、40歳・独身。
筋金入りの節約家で
20代で購入したマンションの
残債もあと少しという強者。
恋愛はコスパが悪いので興味なし。
唯一の趣味は
一日の終わりに
資産管理アプリで総資産を確認することと、
亡くなった母に教わったキルト作り。

そんな唯が
無料クーポンを貰ったので、
がん検診を気まぐれに受けたところ
進行している子宮がんだと宣告されてしまう。

「がんになったら死のう」と
以前から考えていた唯は、
治療をする気は皆無で
老後のために貯めていた資産で、
もう頑張らないで暮らそうと
安堵すら覚えるのだが、
病院のロビーで出会った
鯖色スーツを着た
ピンク頭の年下ホスト・瀬名を、
成り行きで70万で買うことになってしまう。



ちなみに70万は瀬名の父親の入院代を
唯が立て替えたお金で、
「返済の代わりに70時間私と過ごして。」
と、契約したものだ。
孤独だった唯は
瀬名との楽しい時間を過ごしたことにより
気持ちが大きく変化し、
後日想像を絶する行動をとる。

作品を読んでいると
複雑な家庭で育った唯が、
しっかり・きっぱり
している一方で、
心を閉ざしがちで
不安を強く持つ性格に
なってしまった理由がよく分かる。
節約に励んでいたのも
ひとりで自分自身に
責任をもって生きていくために
必要不可欠なものがお金だと
考えたからだろう。

我慢して我慢して
ひとり必死に生きていた唯は、
実は心の奥底では
「好きな人と楽しく生きていきたい」
と、思っていたのではないだろうか。

そんな唯が
自分とは真逆の瀬名に惹かれていったことは
よくわかるけれど、
本作品の瀬名のパートを読んでも
どういったきっかけで
唯に対する瀬名の気持ちに
変化があらわれたのか、
瀬名のことが
私には全く理解できなかった。

現実にはあり得ないストーリーなのだけれど
何だかとても引き込まれる作品だった。
10歳年下イケメン男子、羨ましいぞ、唯。



















にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ
にほんブログ村



読書日記ランキング

塩狩峠 三浦綾子

FullSizeRender

明治末年
結納のため札幌に向かった
鉄道職員永野信夫の乗った列車が、
北海道旭川の塩狩峠で
突然客車が離れ暴走した。

信夫は客車を止めるために
自らの命を犠牲にして
大勢の乗客の命を救った。

この作品は
永野信夫の幼少期から
キリスト教に入信し
犠牲の死を遂げるまでの、
愛と信仰に貫かれた生涯を描いている。




信夫は、母親が自分を産んだ際に死んだため
士族の誇りに満ち溢れた
厳格な祖母に育てられていたが、
ある出来事から
実は母親はヤソ(キリスト教信者)
だったために祖母に家を追い出され、
近くで生きていたことを知る。

祖母の死後
両親と妹と4人で暮らすようになるが、
信仰のために
自分を捨てた母親に対して
心の中でわだかまりを
抱えていた信夫は、
母親に対して
素直に甘えることが出来ない。
また、家族が自分以外
キリスト教信者であることから
疎外感を感じることが多く、
「生きるとは、死ぬとはどういうことか。」
と、悩みながら成長する過程が
非常に印象深かった。

多感な時期に
良き兄貴分になってくれた
親戚の隆士や、
小学生からの親友吉川の存在が
悩み多き信夫にとって
大きな支えとなっていたのでは
ないかと思った。
特に親友の吉川との関係性は
家族以上のものであり、
信夫の後の人生に
大きな影響を与えていく。

もともとキリスト教に対して
反発心を抱いていた信夫が入信するのは、
大人になってからだ。


「一粒の麦、
地に落ちて死なずば、
唯一つにて在らん、
もし死なば、
多くの実を結ぶべし。」

作中に引用されている
聖書の言葉で、
物語にとって重要な意味を成している。

信夫の行った自己犠牲については
賛否両論あると思うが、
個人的には
残された人々の心情を想うと
いたたまれない気持ちになる。
やはり生きているからこそ
為せることもあるのではないかと
思えてならないのだ。
こんなに「犠牲」について考えたのは
初めてかもしれない。
とはいえ
やはり信夫の生き方はとても美しく、
愛に満ち溢れている。
久しぶりに心が洗われたような
気持ちになった。











にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ
にほんブログ村



読書日記ランキング

父からの13冊

FullSizeRender

ハードボイルドが苦手なので
馳星周も読んだことのない作家のひとり。
この作品も積んでしまいそう。



FullSizeRender

「13階段」はタイトルからして
重そうな印象だけれど、
江戸川乱歩賞受賞作ということなので
いつか読みたいと思います。




FullSizeRender

横山秀夫さんはよくドラマ化されている作家だけれど
映像も本も今まで
接したことがなかったので、
この機会に読んでみたいと思います。
あらすじを読んだら「天使」が
面白そうだったので楽しみ。




FullSizeRender


夏樹静子も2時間ドラマの印象強め。
医療ミステリーだそうです。
「千の扉」は世界観が好みな印象。
初読みの作家さんなので楽しみです。




FullSizeRender

「邂逅の森」は今マイブームの時代背景(笑)
山の狩人・マタギの話だそう。
「緋い記憶」は記憶にまつわる短編ホラー。
絶対ひとりの時に読まないぞ。





以上、先日父から貰った13冊でした。
今回は全て知らなかった本だったので
新しい世界が広がるようで嬉しいです。

先日話した際
父は今回で本を買うのをやめると言っていました。
実家には父が若いころに集めた
文学全集が大きな本棚1台分あるのですが、
実はほぼ未読なので
これからは
それらを読み尽くしていきたいのだそう。
古い本なので
物凄く字が小さいのに凄いなあ。
(ちなみに私はアレルギー持ちなので、
眼と鼻が痒くなります。)
私も父のように
82歳になっても元気に読書できたらいいな。






にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ
にほんブログ村


読書日記ランキング


彼岸花が咲く島 李琴峰

FullSizeRender

彼岸花の咲き乱れる砂浜に倒れ、
記憶を失っていた少女は
海の向こうから来たので、
宇実(ウミ)と名付けられる。

宇実の流れ着いた島は
ノロと呼ばれる指導者が統治しており、
ノロになれるのは代々
女語を話すことができる女性だけで、
彼女たちだけしか
島の歴史を知ることはできない。
男性は女語も島の歴史も
一切知ることはできないが、
ノロに憧れている少年・拓慈(タツ)は
内緒で女語を習得している。

ノロに憧れている少女・游那(ヨナ)と共に
ノロを目指すことになった宇実は、
女性が統治する島の
深く悲しい歴史に導かれていく。





島の風習は独特で
「婚姻」や「家族」という形式はなく、
血へのこだわりも全くない。
子どもは島の宝として
学校の幼児部に預けられて
2歳までノロが育て、
その後、島の成人から養育希望者を募り
男女問わず希望した島民が「オヤ」となり、
子どもを成人まで育てる。
女性が男性や家に縛られることがないのだ。

他にも
ノロしか行くことの出来ない
海の向こうにある
宝物をくれる楽園「ニライカナイ」など、
読んでいて「おや?」と思う箇所がいくつもあり
全ての疑問はきちんと回収されていく。

最初は宇実の話す「ひのもとことば」に
游那たち島民が使う「二ホン語」
そして歴史を受け継ぐために
女性だけが知ることが出来る「女語」と、
何だかややこしくて
読み難く感じたが、
慣れてくると
あっという間に
世界観に引き込まれていった。

実際確かに
そういう息苦しさはあるのだけれど、
他国から見た日本って
こんなにも多様性を認めない、
排他的な国に見えるのかなと
少し悲しい気持ちになった。
また、
「楽園」までとはいかなくても
平和な暮らしを維持していくためには、
相当な努力なくしては
叶わないのだということを
改めて考えさせられた。

宇実と游那の決断が
良い方向に導かれていくことを
心から祈りたいと思う。




















にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ
にほんブログ村



読書日記ランキング
プロフィール
kokemomoです。 思春期の子供2人、子育て中。 小説、エッセイ、実用書、コミック、どれも大好きですが、暴力的なシーンの多い話はちょっと苦手です。。。
記事検索
  • ライブドアブログ