ぽかぽかな日々

ミステリーと恋愛小説が大好きな、雑読系主婦の読書日記です。

2022年12月

浮雲 林芙美子

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第二次世界大戦後、
仏印から
ほぼ着の身着のままの状態で
帰国したゆき子は、
敗戦した日本の現実に
大きな虚無感を感じる。

戦時中、
義弟との不倫関係から逃れるために
タイピストとして仏印に渡ったゆき子は、
農林省の富岡と出会い
豊かな南国で生涯忘れえぬ
恋に落ちていた。

けれど冨岡もまた妻帯者であり、
日本に帰国してからは
気軽に会うことも儘ならなず、
貧困からの逃避も相まって
自身の虚無感を埋めるかのように、
ゆき子は富岡に対して
異常なほどの執着を見せていく。

富岡は薄情で女好きの嘘つきだ。
そして
関わる女性全てを不幸にしていく。
なんでこんな男に執着するのだと
読んでいて不思議に思ったけれど、
ゆき子もかなり道徳心に欠けているので、
お互い様といえばそうなのかもしれない。

すでに自分に対して
興味はないと自覚しつつも、
富岡に固執するゆき子に、
もはや
ゆき子のことを
金づるとしか思ってない富岡。
ズルズルとした
二人の関係からは、
惨めさと虚無しか感じられず
なかなか苦しい読書だった。

ゆき子も愚かな女性だったけれど、
女を不幸にして
生き延びていく富岡に、
嫌悪感しか感じられなかったが、
さすがダメ男と(失礼)
ばかり付き合って来た
林芙美子だけあって、
ダメ男の書きっぷりが見事だった。
駄目なやつだと解っていても、
惚れてしまうのが
女の弱さなのかもしれないと思った。








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放浪記 林芙美子

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大正11年から5年間、
日記風に書き留めた雑記帳を
もとにまとめた、
林芙美子の自叙伝。

本書には、
昭和5年に刊行され
ベストセラーとなった、
「放浪記」「続放浪記」が
第1・2部。
戦後に刊行された「放浪記第3部」が
第3部となり収録されている。

私は時系列に沿って
書かれているだろうと思って
読んでいたのだけれど、
1部から3部まで
全て同じ時期のことが、
補足されるようなかたちで
遡って書かれており、
また年代も明記されておらず
日付のみの記載なので、
時系列が分からずに
少し戸惑った。
解説を読み、
雑誌連載に相応しいものを
抜き出して連載していた為と、
当時発禁を恐れて省略されていたものを
戦後に発表された第3部に
掲載したからだと分かった。

本書では著者が
8歳から親の行商の仕事を手伝い
働き出すところから始まる。
激しい貧困や世間の冷たさに
何度も打ちのめされ、
「死にたい、もうこれが
私の人生の終わりだ。」と
挫けそうになり、
「腹が減った」と
繰り返し愚痴もこぼすけれど、
そこに悲壮感は感じられない。

むしろ
職を転々とし
纏まったお金が手に入ると、
突発的に旅に出てしまう。
仕事・住むところ・男に固執せず
気の向くままに環境を変えてしまう
その身軽さに、
少しの羨ましさを感じた。

どんなにどん底でも
上昇志向を忘れず、
働いて自力で女学校を卒業した
強者なのに、
何故か駄目な男にとことん弱い。
最終的には良い伴侶を
得たようだけれど、
「男に貢いじゃ駄目だよ」と
何度思ったことか。

比較的楽で
良い稼ぎの仕事に出会っても、
すぐに物足りなくなって
辞めてしまう。
まるで、
自ら苦難の道を選んで
歩んでいるかのように思えた。
彼女の小説も読んでみたいと思う。





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一葉 鳥越碧

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先日読了した
「恋歌」の主人公・中島歌子の
弟子であった樋口一葉の、
24年というあまりにも短い生涯を
描いた長編小説。

樋口一葉の全てが
この一冊に描かれているのではないかと
思えるほど詳細であり、
著者の一葉への熱い思いが伝わってくる
素晴らしい作品だった。



明治20年
兄の泉太郎が亡くなり、
17歳という若さで
夏子(一葉)は戸主となり
樋口家を継ぐこととなるが、
その後まもなくして
父が事業に失敗し、
多額の借金を残して病死。
負債のすべてが
戸主である夏子の肩にのしかかる。

母と妹の邦子との
母娘3人の暮らしは困窮するばかりで、
仕立物や洗張の仕事では
大した収入にはならない。
質屋通いは日常で、
知人からは
返す当てもないけれど、
借金を繰り返す。

ところが、
お客があれば鰻だお酒だと
借りた金でもてなし、
その借りた金を返すために
また他所から金を借りる。
最初は夏子たちの金銭感覚に
「え?」と疑問に思ったけれど、
それくらいの太い気持ちでなければ
この時代に母娘だけでなど
暮らせなかったのだろう。

「萩の舎」の先輩・田辺龍子が
小説で成功し活躍しているのを機に、
小説で家族を養おうと
半井桃水に教えを請い執筆するも、
夏子の小説は
なかなか日の目を見なかった。

人生のいちばん華やかな時期を
金策に追われて過ごした夏子。
半井桃水への秘めたる思いは、
周囲の心無い噂により遮られてしまう。
ようやく小説が認められてきて、
まさにこれからという
矢先に冒された死の病。

「萩の舎」での親友・伊東夏子が
結核の感染も恐れずに、
最期まで夏子の看病をしに
訪れていたことを知り、
胸がいっぱいになった。

樋口一葉の
あまりにも悲劇的な生涯は
周知のものだけれど、
この小説を読み
夏子は24年の短い人生を
他人の何倍もの力を振り絞り、
全力で生ききったのではないかと
思えてならない。

死を目前にした一葉の
「自分の眼で見、自分の耳で聴くこと信じる。
人の言動に左右されず、自分の判断を信じる。
せっかく生まれてきたのだ。
他人の眼で見、他人の耳で聴いていたら
もったいないではないか。
自分の真の時間を大切にしろ。」
という心の声が胸に響いた。

人の噂にふりまわされ
自分の気持ちを伝えることすら
出来なかった半井桃水への思いや、
夏子自身は慕っている斎藤緑雨のことを
周囲が悪口を耳打ちしてくることへの
不信感などから溢れた思いなのだろう。
他人の噂にばかり支配されてしまったら、
それは自分の人生ではなくなってしまうから。
そのことを死の淵で思うことが
本当に切なかった。

死後100年以上経った現代でも、
愛され読み続けられている
樋口一葉の作品。
いつか読んでみたいと思う。








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恋歌 朝井まかて

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明治36年。
三宅花圃が、師・中島歌子の
手記を見つけ、
読み始めることにより
物語は始まる。

時は江戸末期、
樋口一葉の師として知られる
中島歌子(登世)は、
江戸で商家の娘として
裕福な暮らしをしていたが、
一途な恋を成就させ
水戸の藩士へと嫁ぐ。

夫は尊皇攘夷の急先鋒・天狗党の
志士であったが、
水戸藩内では
諸生党と天狗党と分裂して
争い合っていた。
やがて内乱が勃発すると、
登世たち天狗党の家族は
逆賊として諸生党に捕らえられ、
投獄されてしまう。

劣悪な獄中での生活描写には、
「地獄」以外の表現が見つからない。
諸生党の首魁・市川三左衛門による
「根絶やしにせよ」
との命令に従い行われた、
罪のない3歳の子どもまでをも含む
凄惨な処刑には身の毛がよだつ。
時代の渦に巻き込まれてしまった
女性たちの辞世の句が、
とても哀しかった。

なんとか生き延びた登世だけれど、
懸命に生きても生きても
一番いて欲しい人は
この世にいない。
愛する夫と過ごした日々は
あまりにも短かく、
夫が戦場に出る前に詠んだ
自身の返歌に悔いがあったために、
和歌を学ぼうと決意する。

あのとき、
昼も夜も
彼の胸の中で響き続けるような
言葉を捧げたかったから。

だからこそ
小説に転向していった
樋口一葉や三宅花圃に、
複雑な気持ちを抱いたのだろうか。
「歌はもう、
命懸けで詠むものではないのだろうか。」
と、自問自答を繰り返しながら。

天狗党を弾圧していた諸生党も、
やがて時代が変わり
天狗党の残党から、
凄惨な報復を受ける。
桜田門外の変を起こし、
幕末維新の火蓋を切った水戸藩が
明治新政府に名を連ねなかったのは、
藩内で敵味方に分かれ
殺し合いをした結果、
人材が残っていなかったからだと
いうことを初めて知った。
天狗党も諸生党も
国を良くしたいという思いには
違いはなかったはずなのに、
なんて虚しいことだろう。

中島歌子の愛に溢れた
波乱万丈の半生、
そして
幕末から明治にかけての
動乱に巻き込まれた
女性たちの悲運をも描かれた、
いつまでも
心に余韻の残る
素晴らしい作品だった。




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11月の購入本

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2冊とも、ずっと探していた作品。
ようやく見つかり、
とても嬉しい。


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まだ1作品目の「事始」を
読んでいないのだけれど、
これから読みたいシリーズなので
続きを購入。

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ちくまの日本文学は、
とても読みやすいので
お気に入りのシリーズ。
今回は期限の迫った
楽天ポイントで購入しました。



以上が11月の購入本
5冊でした。
10月にたくさん購入していたので、
さすがに控えました。
今月は積読本を、
ガンガン読もうと思ってます。




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プロフィール
kokemomoです。 思春期の子供2人、子育て中。 小説、エッセイ、実用書、コミック、どれも大好きですが、暴力的なシーンの多い話はちょっと苦手です。。。
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