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昭和10,11年。
帝都東京で
財閥の令嬢・英子と、
彼女の運転手兼お目付け役の
別宮みつ子ことベッキーさんが、
日常の謎に挑む
ベッキーさんシリーズ最終巻。


衆人環視の玄関先から
神隠しのごとく消えた
華族子爵の失踪事件を追跡する
「不在の父」

中学受験を控えた良家の少年は
なぜ治安の悪い地域に
深夜ひとりでいたのか。
少年の行動を謎解く
「獅子と地下鉄」

そこに居るはずのない人物が
写真に映り込んでいた。
なぜそのようなことが起きたのか
不可思議な謎を追う
「鷺と雪」


以上3作品が収録されている。


「不在の父」では
自分の精神に自由に
正直に生きていくために、
豊かな生活と身分を捨てた子爵から
「真の豊かさ」とは何かを考えさせられた。
また
英子は若月少尉と偶然の再会を果たし、
詩集を譲り受ける。
美しい詩集のなかに
先行きの不穏を感じさせる
文言「騒擾ゆき」見つけ、
胸が苦しくなった。

「獅子と地下鉄」では
この時代から中学受験は過酷だったのかと、
とても驚いた。
「夏に休みがあると思ったやつは、
すでにして敗者だ。」
このセリフなんて
私の子どもたちが中学受験したときにも、
塾の先生はもう少しソフトだけど
同じようなことを言っていた。
親の願いだけが突き進んで
子どもに過度のプレッシャーを
かけるようなことだけは、
絶対にしてはいけないと
改めて思った。

物語の最後「鷺と雪」。
大名華族のご令嬢との
結婚が決まった桐原大尉が、
ベッキーさんとの対話を望む。
二人の会話からは
今後の日本の突き進む未来が
垣間見える。
戦争回避を願うベッキーさんの
切なる願いは、
桐原大尉の胸に
しっかりと受け止められるけれど、
大尉から「大きすぎる機械が動き出せば、
それは人の手では制御できない。」
と苦しい胸の内を伝えられる。
けれど
ベッキーさんの
「わたくしは、人の善き知恵を信じます。」
の言葉を護符のように受け止めた桐原大尉は、
ベッキーさんのことを
性別を超えて
対等もしくはそれ以上に、
認めていたのだと思う。

そして2・26事件の日の朝。
不思議な偶然が英子に降りかかる。
どうして「彼」がそこにいるのか。
なぜ「武運長久」を祈るよう言われたのか。
英子が真実を知ったときのことを思うと
胸がとても痛む。

この先に英子やベッキーさん、
兄さんや友人たちに襲いかかる
運命がとても恐ろしく、
ベッキーさんの最後の言葉が
心に突き刺さる。

戦後、力強く生きている
ベッキーさんや英子たちの
物語の続きを
読んでみたいと思った。














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