女子高生の美緒は
いじめが原因で不登校になっています。
美緒は自分が産まれたときのお祝いにと、
岩手の祖母が
羊毛を手仕事で染め
紡ぎ、織ってくれた
ホームスパンの赤いショールを
心の拠り所のように大切にしています。
祖母はその後すぐに
事故で亡くなってしまいますが、
そのことが原因で父が祖父が
不仲になってしまったため、
祖父が岩手で営む染織工房にも
祖父にも会ったことはありません。
私立中学で英語教員をしている美緒の母は、
なんとしてでも学校に通わせようとして
美緒のことを精神的に追い詰めてしまいます。
厳しい母に
いつも怒っているような顔をしている
無口な父。
追い詰められた美緒は
岩手の祖父のもとに家出をします。
初めて会った祖父は
暖かく美緒のことを受け入れてくれ、
ホームスパンのショールを織ることを
勧めてくれるのです。。。
ホームスパンを通しての
家族の再生の物語です。
私は美緒の祖父の愛情の深さに
とても心打たれました。
不仲の両親のもとで育った美緒は
まわりの人を怒らせないよう、
無意識に顔に薄ら笑いを浮かべてしまう
癖があります。
人が苦手で、
自分の表情、振る舞い、言葉。
その選択を上手く出来ずに
まわりの人を不愉快にさせてしまうと
悩んでいる美緒を、
祖父は大きな心で包み込んでくれます。
「固い甲羅があるのなら、
無理をして顔を出すことはない。」
と、逃げることを肯定しつつも
美緒の繊細な性格について、
「繊細な性分は、人の気持ちのあやをすくいとれる。
物事を注意深くみられるし、
集中すれば思わぬ力を発揮することもある。
へこみとは、逆から見れば突出した場所だ。
悪いところばかり見ていないで、
自分の良い点も探してみたらどうだ?」
と視点を変えるよう提案してくれるのです。
「自分がどんな好きで出来ているのか探して、
身体の中も外もそれで満たしてみろ」
「責めてばかりで向上したのか?
鍛えたつもりが壊れてしまった。
つらいだけの我慢は命が削られていくだけだ」
どの言葉も胸に響いて離れません。
「大丈夫、まだ大丈夫」
いつも自分に言い聞かせて
心が壊れてしまった美緒にとって
おじいちゃんの言葉は、
両親からも掛けられた事のない
初めての「救いの言葉」
だったのではないでしょうか。
美緒の母も複雑な気持ちを抱えています。
娘の美緒に対しての言動には
正直
救いようのないほど幻滅しましたが、
子育てを失敗したと
自分を責める母に対して
祖父が投げかけた言葉もまた
素敵でした。
「美に感応できる素直な心はなにものにもかえがたい。
蒔かれた種は今、豊かに芽吹こうとしているんだ。
失敗?どこを指して失敗というんだ。
見事だ。
見事に育てなさった。」
全てのことに対して
大きな広い心で
前向きに受け入れ
全面的に肯定してくれる祖父の存在によって、
家族は再生に向けて動き出せたのではないかと
思いました。
おじいちゃんの
お洒落な暮らしぶりや、
美味しそうなお料理に飲み物。
そして初めて知った
羊毛を手で染め紡ぎ織るホームスパンの仕事。
とても読み応えのある作品でした。
「紡いでいる糸は、切れても繋がる」
悲しい経験を沢山したけれど、
美緒がこれから職人として
前を向いて生きていけたらいいな。
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