ぽかぽかな日々

ミステリーと恋愛小説が大好きな、雑読系主婦の読書日記です。

日本人作家 た行

武田百合子 天衣無縫の文章家

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武田百合子さんのムック本。

弟さんが語る
幼少期の記憶からして、
後の
「武田百合子」としての土台が
既に出来上がっている
気がしてならない。

苦しい戦後を
必死に生き抜き、
若き日に
神田神保町の「らんぼう」で
働いていた頃の、
若き日の
文豪たちと過ごした日々は、
彼女の逞しくも
美しい魅力に
満ち溢れている。

けれど、
泰淳さんとの
結婚に至る経緯については、
本に書かれたことを
もし彼女が知ったら、
怒り狂ったのではないだろうか。

娘の花さんのインタビュー
「母と過ごした日々雑記」では、
読者の期待を全く裏切らない
ありのままの
武田百合子を知ることが出来る。

また
全体を通して
写真が多く掲載されており、
「富士日記」や「犬が星見た」の
裏話も面白かった。

単行本未収録エッセイに
描かれていた、
彼女の文章を書くにあたっての
こだわりが、
とても素晴らしかった。
・自分が嫌いな言葉は使わない。
・「美しい」と書くときは、
何がどう美しいのかなど
具体的に書くようにする。
など、簡単そうに思えるけれど
とても難しいことだ。

本書を読み、
「富士日記」をもう一度
丁寧に読み返したくなった。


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新・東海道五十三次 武田泰淳

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まだ
女性ドライバーが
非常に珍しかった時代に、
武田泰淳・百合子夫妻が
車で巡る、
新・東海道五十三次。

妻の運転する
車の助手席に悠然と座り、
指示を出しているのかと
思いきや、
実は複雑な心中を
エッセイで明かす
泰淳さん。

けれど、
トラブルの対処は
すべて妻任せ。
警察もトラックドライバーも
なんのその。
一人で立ち向かう
妻・百合子さんの
果敢な姿に、
感動すら覚える。

正直なところ
あまりにも妻任せの
その態度に、
私の夫が
泰淳さんのようでなくて
本当によかったと、
思ったほどだ。

お寺で生まれ育った
泰淳さんの若き日々の回想や、
高度成長により
変化してしまった
様子なども
詳細に描かれているが、
武田百合子が好きで
本書を読んだので、
妻との
他愛のないやり取りや、
「富士日記」で
百合子さんが描いていたことと
泰淳さんの
視点から見た様の対比が、
非常に面白かった。

巻末の
娘の花さんによる
描き下ろしエッセイも、
百合子さんの
新しい一面を知ることが出来て、
とても
素晴らしかった。


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日日雑記 武田百合子

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武田百合子氏最後のエッセイ集、
『ニチニチザッキ』

帯にある通り、
『富士日記』にも度々登場する
武田夫妻の友人、
大岡昇平さんや深沢七郎さん
たちとの別れや、
愛猫の死。
そして
天皇陛下の体調不良から、
美空ひばりの
伝説の復活コンサートへ
行ったエピソードから、
昭和の終わりが描かれている。

ひとつの時代の終わり
とともに、
著者の老いも
伝わってくるので、
富士日記のころと比べると
色々と考えさせられる
エッセイ集だった。

映画好きの母娘が、
物凄く沢山の
映画を見に行き、
勝手気ままに感想を
言い合っている仲睦まじい様子。

割り勘でレンタルビデオを
借りて、
朝食時に観るという
微笑ましいエピソードから、
『つまらない映画を借りてきたら・・・』
の、まさかのペナルティに
笑ってしまった。

大岡昇平さんが
亡くなった時の
百合子さんの追悼文が、
非常に良かった。
戦争体験を語れる人たちが
少なくなってきている現在。
彼らの遺した作品を読んでいくことで、
戦争の悲惨な歴史を
決して風化させてはいけないと
心から思った。


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ことばの食卓 武田百合子

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食べ物に関する
昔の記憶や思い出を、
淡々と描いたエッセイ集。

全体的に、
何処となく仄暗さを
感じさせられるが、
昭和の雰囲気を
じんわりと味わっている様な
不思議な感覚になる、
エッセイ集だった。

身体の弱かった
幼き日の
百合子さんのために、
祖母が長火鉢に土鍋で
温めてくれた
牛乳の話から、
現代だったら
明らかに不審者と思われる
牛乳配達のお兄さんへと
話が繋がっていく
『牛乳』と、
苦しい戦時中を描いた
『続牛乳』。

娘さんと
デパートのレストランで食べた
オムライスが、
驚くほど不味かった描写が
とても面白い
『夏の終わり』
の三篇が、
特に印象深かった。

既に昭和の終わりでは
あったけれど、
自身の小学生時代の
秋の夕暮れを
なぜか思い出し、
ふと切なくなった。

繰り返し読み返したくなる
エッセイ集だった。

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犬が星見た ロシア旅行 武田百合子

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生涯最後の旅行と予感している
夫・武田泰淳と、
泰淳の長年の親友・竹内好と巡る
ロシア旅行記。

『竹内と百合子と俺で
旅行しておきたいと思ってたんだ。
それに三人で行けるなんてことは、
これから先、まあないだろうからな。』

著者のあとがきによると、
旅の支度をととのえながらの
この言葉は、
その通りになったと言う。

その後
泰淳さんは病になり、
51年の秋に亡くなった。
その5ヶ月後、
竹内さんも亡くなられたのだそうだ。

この旅行記は、
夫の死後
百合子さんが書かれた作品のため、
あとがきには
彼女の深い悲しみが
溢れていた。

昭和44年6月10日から
7月4日の間、
ロシアからデンマーク、スウェーデンの
旅行記なのだが、
富士日記の経緯と同じく
泰淳さんに、
『つれて行ってやるんだからな。
日記をつけるのだぞ。』
と言われ、
旅行中に記した
走り書きを元に、
この作品は生まれた。

3カ国通して、
やはり食事の記録が
一番興味深いのだけれど、
ロシア旅行で同行した
関西グループの
「銭高老人」が、
非常に味わい深く可愛らしい。
どなたかは
名前から想像つく方も
多いだろう。

現地の日本語が話せる
メイドと会話した後に、
『わしら日本語で話していたのか。
わし、ロッシャをまわるうちに、
ロシア語がいつのまに上手うなってからに、
話がよう通じるんじゃ思とった。』
と言ったエピソードには、
思わず笑みが溢れてしまった。

初めて行った、
勿論言葉もわからない
ストックホルムで、
泰淳さんに
『酒買ってこい』
と言われ、
百合子さんが2時間も
さまよった際に、
竹内さんが泰淳さんに
説教した場面では、
ほとんどの読者が
『竹内さんよく言った』
と、思ったことだろう。
まあ、
百合子さん自身は
アッケラカンとしているのだけれど、
百合子さんファンの
私としては、
彼女のそのような
サバサバした姿もまた
痺れるのだ。

旅行中、
喧嘩までは行かないけれど
不穏な雰囲気になった
泰淳さんと竹内さんが、
ポルノ雑誌探しで
意気投合する様子も
可愛らしいのだけれど、
せっかく手に入れた
ポルノ雑誌を、
空港で没収されることを
恐れて、
ホテルに隠して帰ろうとする
竹内さんに対し、
『勿体ない。私が持って帰る。』と、
自分のスーツケースに
詰め込む百合子さんは、
もっと可愛らしい。

最初で最後の
3人の旅行記。
この作品に登場する人たちは、
すでにこの世にいないということが
不思議に思えるほど、
生き生きと
しているからこそ、
少しの寂しい余韻が
心に残る作品だった。



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プロフィール
kokemomoです。 思春期の子供2人、子育て中。 小説、エッセイ、実用書、コミック、どれも大好きですが、暴力的なシーンの多い話はちょっと苦手です。。。
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