ぽかぽかな日々

ミステリーと恋愛小説が大好きな、雑読系主婦の読書日記です。

日本人作家 わ行

可哀相な姉 渡辺温


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1927年(昭和2年)、
「新青年」に掲載された作品。

貧しい二人暮らしの姉弟。
生まれつき
喋ることの出来ない姉は、
身を削るようにして働き
愛しみながら
弟を育てていた。

弟が大人になることを
頑なに嫌がっていた姉だったが、
やがて弟には髭が生え
性に目覚めてしまう。



「私は、姉を食べて大きくなったようなものだ。」

最初は感謝の言葉であったはずなのに、
読了後には
とてつもなく
この言葉にリアルな重みが増してきて
身悶えしてしまった。

驚きの伏線回収とともに、
タイトル「可哀想な姉」の意味合いも
初めとは全く異なってくる。
弟による一人称での淡々とした語りが、
物語に更なる薄気味の悪さを加えている。

イヤミスは苦手なのだけれど、
短編なので
意外とサラッと読むことが出来たが、
あまりの後味の悪さに
ゾクッとした。

若くして事故死されてしまったため
作品数はあまり多くはないけれど、
渡辺温さんの他作品も、
もっと読んでみたいと思った。






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ひらいて 綿矢りさ

昨年、初めて綿矢りささんの作品を読み
その文章の美しさと世界観に、
瞬く間に引き込まれてしまった。




その時の作品はこちら



出来れば同じような世界観のストーリーがいいなぁと思い
検索した結果、出会ったのがこちらの作品。


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女子高生の愛は、華やかでモテる
所謂スクールカースト上位の女の子。

体形を維持するために
厳しく自己管理し、
大学の推薦を貰うために
1年生の時からきちんと授業を聞き
定期テストの前だけしっかり勉強をして
良い成績をキープしながらも、
「自分の可能性のためにいっしんに努力する情熱を、
わたしは持ち合わせていない。」
と、冷めた目で自分を客観視するような一面を持っている。


そんな愛が好きになったのは、
クラスでもかなり地味な男子「たとえ」

自分だけが彼の魅力に気が付いていると思っていたのに、
彼の手紙を盗み見したことから
彼女がいたことを知った愛は、
なんとその彼女「美雪」のことを誘惑してしまう。




たとえを想う気持ちが膨らむほど、
冷静だった愛がだんだんと
常軌を逸した行動をとるようになり、
成績はがた落ちし
クラスからも浮いた存在になっていく。
愛の転落ぶりがとても苦しかった。


どうしてそこまでして、
たとえなのだろう。
読みながら何度思ったことだろうか。


そしていつしか
本当の気持ちを伝えても、
たとえにも美雪にも
信じてもらえなくなり、
優しい美雪に
「愛ちゃんは表面の薄皮と内面の肉が、
細い糸でさえつながっていない。
完全に分離してる。
だから何を言っても私には響かないし、
届かない。」
とまで言わせてしまう。


器用に生きていたように見えた愛の不器用さに、
愛と共に打ち震えながら
タイトル「ひらいて」の意味に
思いをよせた。




ひらかれた後の愛に
「なにも心配することはない。
あなたは生きているだけで美しい」
と言ってくれる存在が
どうか現れますように・・・






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生のみ生のままで 上・下 綿矢りさ

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25歳の夏、恋人と出かけたリゾートで、
逢衣は彼の幼馴染とその彼女・彩夏と出会う。
芸能活動をしているという彩夏は、
美しい顔に不遜な態度で
逢衣に対して不躾な視線を寄越してくるが、
4人で過ごすうちに次第に打ち解け
東京へ帰った後も
逢衣は彩夏と親しく付き合うようになる。
やがて恋人との間に結婚話が出始めたことを
彩夏に伝えると、
突然、彩夏に唇を奪われて・・・




逢衣は高校時代バスケをしていて、
ハッキリ、サッパリとした性格。
当時からずっと好きだった先輩と付き合い
幸せの絶頂だった彼女は、
突然、彩夏にキスをされ
「逢衣を見るだけで身体の細胞が
全部入れ替わってしまうくらい好き。」
「私は逢衣を友達なんて思ったことなかった。
最初からずっと好きだった。」
と情熱的な告白をされます。
女性を恋愛の対象として考えたことのない逢衣は、
彩夏のことを最初は拒絶しますが
やがて彩夏に魅せられてゆき、
お互いに異性の恋人と別れ
ふたりで暮らし始めるのです。
幸せいっぱいのふたりなのですが、
芸能活動をしていた彩夏の人気に火が付き、
思わぬ試練に襲われます。
そして切ない決断を迫られて・・・
上巻は終わります。

下巻では
7年の月日が経っており、
その間逢衣が、肉体的にも精神的にも
とても逞しく成長していきます。
そうせざるを得ない状況だったのですが、
禁欲の試練も涙ぐましい(笑)



ところで
彩夏も今までは男性としか付き合ったことはなく、
「女性だから」ではなく「逢衣だから」好きなのだ、
性別を超えて特別の存在だと
逢衣を想う気持ちを伝えるのですが、
とにかくこの作品は、
相手に対する思いの丈を伝えるセリフが
美しくてたまらないのです。
先程の「細胞が入れ替わるほど」も凄いですが、
物語の後半で逢衣が彩夏に伝える
「彩夏の名前すら人前で呟けない人生でも、
私は毎日を一緒に過ごせれば、
これ以上ないほど幸福だよ。
彩夏と一緒にいられたら、
私にはどんな場所も日向だよ。」
というセリフが、
私の一番のお気に入りです。
実は、いつも情熱的な気持ちを
真っすぐに伝えてくる彩夏と違って、
逢衣はもともと自分の気持ちを彩夏に
あまり伝えてこなかったのですが、
(もちろん心の中は彩夏のことでいっぱい。)
ある出来事を経て、
彩夏が実は逢衣に愛されている自信がなかったこと。
そして、自分が逢衣の人生を狂わせてしまったと思いこみ、
後悔に苛まれていることを知り、
自分の気持ちをきちんと彩夏に伝えるように
なってのこのセリフなのです。
もうね、物語の世界に入り込んでいる私の涙腺は
崩壊寸前でした。



ふたりが最後一体どんな決断をするのか、
最後までドキドキのし通しだったのですが、
生涯でただひとり
ただ一度の相手が
たまたま同性だっただけ。
それでも
日本では性の多様性にはまだ厳しく
とても息苦しく生き辛い。
もっと一人ひとりが、
他人に寛容であってよいのではないかと
思わずにはいられませんでした。





綿矢りささんは、初読みの作家さんだったのですが
あまりの文章の美しさと、
逢衣と彩夏の
狂おしいほどに互いを求めあう情熱に魅せられ、
読了後も心がなかなか現実世界に戻れないくらい
とても没頭した読書でした。
こんなにも入り込んだのは
本当に久しぶりです。
是非、綿矢さんの他の作品も
読んでいきたいと思いました。


























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プロフィール
kokemomoです。 思春期の子供2人、子育て中。 小説、エッセイ、実用書、コミック、どれも大好きですが、暴力的なシーンの多い話はちょっと苦手です。。。
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