ぽかぽかな日々

ミステリーと恋愛小説が大好きな、雑読系主婦の読書日記です。

井上荒野

そこにはいない男たちについて 井上荒野

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愛する夫を突然喪い、
喪失感から不安定な精神状態に陥っている
料理教室を主宰する実日子と、
不仲な夫のことを
大嫌いだと公言しながらも
離婚をせずに同居し続けているまり。
美味しい料理と共に描かれる
ふたりの妻の孤独の物語です。



実日子とまりは
お互いに夫婦二人暮らしでしたが、
夫との関係は
対極したものでした。


実日子と夫の俊生はとても仲が良く
実日子が料理教室を始めるきっかけも、
俊生が営むブックカフェ兼古書店のイベントで
振舞う料理が評判となったから。
夫の両親との仲も良好で
夫の生前はとても幸せな生活でした。
それだけに
夫を亡くした喪失感は
実日子のことを苦しめます。



一方、まりは
不動産鑑定士の夫の秘書をしています。
新婚当時はとても仲が良かったのですが、
だんだんと会話が減り
まるで家庭内別居状態。
夫の両親との関係も微妙・・・
「どちらが先だったのだろう?
夫と私、どちらが先に相手を嫌いになったのだろう?」
それがわかった所でどうしようもないと結論付けることを
自身に言い聞かせているような日々。


まりの生活を読むときは
少し胸が苦しくなりました。
長年夫と一緒に暮らしていると、
たしかにまりと同じ様な気持ちになることが
私にもあるからです。


恐らくまりは
夫のことを嫌いだと言いつつも、
本当は愛していたのではないかなと
私は思いました。


愛しているから
夫に対して
「自分のことを見て欲しい、向き合って欲しい」
という期待を抱く。
そして
その期待に応えてくれない夫に対して
怒りの感情が生まれる。
まりの夫に対しての感情は
恋慕から生まれた憎悪だったのではないか。
だって
嫌悪だったら離婚すればよいのだから。

けれど
まりのとった不器用な復讐は
最悪だったと思いました。


実日子は苦しみながらも
夫のいない現実と向き合い、
「夫はいなくなったけど、私は、まだ生きている」
と思えるようになります。
まだまだ夫のことを思い出し
胸が潰れそうになるけれど、
夫の両親と笑いながら夫の話が出来るまで
前をむいて進めるようになりました。


ふたりの結末もまた
対極なものでした。
この作品は
読み手によって、
実日子とまりのどちらに共感するのか
ハッキリと別れる作品だと思います。



生き方が下手な私は
実日子のようになりたいけれど、
自身の中にまりの要素も確実にあるので
気を付けたいなと思いました。



美味しそうなお料理に
お酒が沢山出てくる作品です。
晩酌用のお酒を
買いに行きたくなりました(笑)











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あちらにいる鬼 井上荒野

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小説家の父井上光晴氏と美しい母、
そして
愛人だった瀬戸内寂聴さん。
3人の情愛を巡る不思議な関係を
娘である荒野さんが描いた
衝撃作です。




瀬戸内寂聴さんが出家前は
恋多き女だったことは
有名な話ですが、
井上荒野さんのお父さんとも
関係を持っていたことを、
つい最近まで知りませんでした。

しかも
寂聴さんが出家するきっかけは
光晴さんとの不倫関係を清算するためだったとは、
本当に驚きました。



この作品では
光晴=篤郎
荒野さんの母=笙子
寂聴=みはる(寂光)
荒野=海里
の名称で描かれています。



篤郎とみはるの不倫が始まった時、
海里はまだ5歳でした。
篤郎はみはるとの不倫をしながら、
他にも多数の女性と関係を結ぶ
正直に言ってだらしのない男。
そして嘘ばかり吐くので
「嘘吐きあっちゃん」と
揶揄されているような男性です。

愛人が自殺未遂をしたら怖くなってしまい、
「知り合いの女性がなんか勘違いをして・・・」と
見え見えの嘘を吐き、
妻の笙子に手切れ金を持たせて見舞いに行かせます。

相手の女性の気持ちも
妻の気持ちも全く考えずに。


また篤郎は
みはるには妻自慢を披露し、
笙子にはさりげなく愛人の存在を仄めかすのです。


読んでいて
本当に最低な男だなと思うのですが、
何故だかとても女性にモテるのです。
しかも晩年まで
女性と関係を持つ為に
職権乱用の様な事をしでかし、
周りに迷惑をかけまくります。
それでも
笙子もみはるも
篤郎の子供じみたところを
呆れながらも
篤郎を愛さずにはいられない。

一体どんな男性だったのでしょうか・・・




みはると笙子は
同じ男を愛した「同志」のような、
友人のような
不思議な関係をもちます。
互いに言葉を多く交わさなくても
心のどこかで繋がっているような。

私には
愛人のみはるを意識しながらも
憎むことをしない笙子が
とても不思議でした。

それどころか
愛人たちの何人かとは、
その関係が解消されてからは
友人の様な付き合いをしているのです。


みはるが出家するときも
「自分だったらそうして欲しいから」
篤郎にみはるに付き添ってあげるよう促します。
そして
愛人関係を解消し友人関係になってから
篤郎が死ぬまで3人の関係は続いていくのです。
不倫の時から数えるとすでに26年です。
いえ
寂光(みはる)も2人と同じ墓地を購入しているので
永遠に一緒ということでしょうか。。。




なんとも壮絶な内容を
娘の荒野さんが淡々と描いているので
不思議と嫌悪感を抱くことがなく、
みはると笙子の心情に
静かに寄り添うような気持ちで
読むことが出来ました。


モデルとなった寂聴さんも絶賛されている
本当に凄い作品です。



この本をきっかけに
寂聴さんの若い時の自伝的作品等も
読んでみたいと思いました。



















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プロフィール
kokemomoです。 思春期の子供2人、子育て中。 小説、エッセイ、実用書、コミック、どれも大好きですが、暴力的なシーンの多い話はちょっと苦手です。。。
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